市場参入に鍵を握るGTM(Go To Market)戦略とは?GTMの手順と成功事例も解説!

新しい市場への参入や新製品の発売には、さまざまな困難が伴います。アメリカのタイヤ・メーカーユニロイヤル社の宣伝部長であったジャックトラウト氏はアメリカの家庭の製品使用について「必要品の85%は、以前も購入した150品目の商品でカバーされている」と述べています。本記事で解説するGTM(Go To Market)戦略を理解することは、競合が激化する現代の市場において、新製品を投入するリスクを最小限に抑え、成功の可能性を最適化することに役立ちます。ぜひご一読ください。

INDEX目次

1.GTM (Go to market)戦略とは

1-1.GTM(Go to market)戦略について

「Go to Market (GTM) 戦略」とは、直訳すると「市場進出戦略」であり、企業が製品やサービスを新たに市場に導入する際の計画的な手順のことを指します。具体的には、商品やサービスの開発から販売・マーケティング、顧客サポートなど、商品やサービスが市場に到達するための全プロセスを統合的に計画し、実行することです。GTM戦略の目的は、製品やサービスを効果的に市場に導入し、競合他社との差別化を実現して、より多くの顧客を獲得することにあります。

1-2.GTM(Go to market)戦略が必要になるシチュエーション

それでは、GTM戦略はどんな場面で必要とされるのでしょうか?以下は、GTM戦略が必要なシチュエーションの例です。

  1. 既存製品の新規市場への投入: 新しい市場に進出する場合、その市場の特徴やニーズを理解し、適切なGTM戦略を策定する必要があります。

  2. 新製品や新サービスの立ち上げ: 新しい製品やサービスを立ち上げる場合、市場に受け入れられるような価値提供や差別化戦略を考慮し、GTM戦略を立案する必要があります。

  3. 顧客ニーズの変化: 顧客のニーズや要求が変化した場合、新たな製品やサービスを提供するために、GTM戦略を再検討する必要があります。

新規市場への参入だけでなく、変化が激しい今日の市場環境ではGTM戦略を再検討することで、市場のニーズを理解することにつながり、企業の競争力を維持することができます。

2.GTM (Go to market)の7つの手順

それではGTM戦略立案の手順について1から説明していきます。

Step1.製品を投入する市場とペルソナを特定する

まず最初に、企業はどの市場に参入するかを決定する必要があります。またペルソナを明確にして、自社製品が誰のどんな課題を解決できるのかを理解しましょう。

Step2.競合他社を調査する

自社製品の立ち位置を理解するためには、競合他社がどんな価値を提供しているのかを把握する必要があります。例えば、他社のレビューページを確認することで、顧客が製品のどの側面に価値を感じるかや不満足な部分を把握することもできるでしょう。

Step3.カスタマージャーニーを定める

カスタマージャーニーは、顧客が製品やサービスに興味を持ち、購入するまでの過程を指し、一般的に3つのフェーズに分けられます。

①認識

顧客は自分自身や自分のビジネスに関する問題点を把握するために、情報収集を行います。例えば、営業組織に課題を抱えているマネージャーは、「売れる営業マンの特徴」や「営業組織の成果を上げるには」とWeb検索を行い、自身の問題を特定しようと試みます。このように認識フェーズの顧客は情報収集や学習を行い、根本にある原因を探っています。

②比較・検討

比較・検討のフェーズにいる顧客は、自身の課題が明確になり、解決するための製品やサービスを選定するために、複数の候補を比較・検討します。

③決定

企業のサービス導入の決定は、比較・検討段階で行われた複数の候補の中から、最適な製品やサービスを選定することで行われます。企業は自社の課題やニーズを洗い出し、それらを解決するための製品やサービスを選定するために、複数の候補をコスト、機能性、スケーラビリティーなどから評価します。いくつかの要素を総合的に考慮して最適な製品やサービスを選定し、導入の決定を行います。

自社の顧客のカスタマージャーニーを理解することで、顧客のニーズや問題点を把握し、先のステップである適切なマーケティング戦略を展開することができます。

Step4.製品のキーメッセージを作る

自社の製品やサービスの価値をターゲットに共感してもらうためには、自社が提供する価値について言語化する必要があります。「顧客はなぜ、他社ではなく我が社から買うべきなのか?」と問うことで、自社独自のメッセージを開発することができます。例えば、ビジネス向けのコミュニケーションプラットフォームを提供するSlackは、「Teams work better together with Slack(Slackでチームワークがより良くなる)」というメッセージを開発しました。このメッセージは単にSlackがどのようなプロダクトであるかを伝えるのではなく、チームワークに関する課題を抱えるビジネスの組織に向け、ソリューションを提供するツールであることを示しています。結果としてSlackはビジネスチャットツールとして確固たる地位を築いています。

Step5.プロモーション戦略の確立

プロモーション戦略は、商品やサービスを販売するための広報活動や販促活動の計画や実施であり、適切な顧客とのコミュニケーションを選ぶことが成功の鍵になります。企業によってペルソナも製品の提供価値も異なるはずなので選定市場のリーディングカンパニーが行っているプロモーション戦略が必ずしも自社に合うわけはありません。適切なプロモーション戦略を組むために、ペルソナや潜在顧客が自社のカスタマージャーニーのどこに位置しているかを考え、必要なコンテンツを提供しましょう。

Step6.営業戦略の確立

①インサイドセールスモデル

インサイドセールスモデルは、オンラインや電話などのリモートツールを使用して顧客とのコミュニケーションを行う営業モデルです。主に中小規模のビジネスに向いており、リード獲得、案件のクロージングなどを行います。

②フィールドセールスモデル

フィールドセールスモデルは、セールス担当者が直接顧客を訪問する営業モデルです。顧客との直接的なコミュニケーションが必要な場合や、大規模な案件の獲得、契約更新、アップセルなどに使用されます。

③セルフサービスモデル

セルフサービスモデルは、オンラインストアなどの顧客が自身で購入や契約を行うモデルであり、小売業、旅行業、エンターテインメント産業、SaaSなどの幅広い分野で見受けられます。このモデルでは、顧客が自分で製品の調査や評価をしているため、営業担当者との直接の関わりはほとんどありません。

④パートナーモデル

パートナーモデルは、自社での営業活動を行わず、代理店や販売代理店などのチャネルを通じて顧客を獲得する営業モデルです。自社が持つコア技術を活用し、外部パートナーに売り込むことができ、営業チャネルの拡大が可能です。

Step7.フィードバックと改善

継続的な顧客からのフィードバックを吸い上げることが、戦略の最適化につながります。定期的な分析により、どの戦略がうまく機能しているか、どのステップに改善の余地があるかを考えましょう。

3.GTM (Go to market)の成功事例

では実際にGTMをどのように行ったのかの事例を見てみましょう。

3-1.Airbnb

サンフランシスコに拠点を置くアメリカのバケーションレンタルのオンラインマーケットプレイス企業であるAirbnb社はイスラエルのへの市場進出を決めていました。そこでAibnbはイスラエルの競争環境を理解するため、分析ツールを用い、GTMのステップ2である市場調査の一環として、イスラエルに進出する国際的なマーケットリーダーや精力的な新興プレーヤーなどの競合を特定することにしました。次に、競合他社から、サイトへの顧客の流入経路の順位付けと他社の効果的なマーケティング戦略の分析を行いました。すると、イスラエル市場における成功している競合相手は、いづれの4つのチャネルにリソースを投じていると判明しました。

①地元のテレビCM
②Web上の検索広告およびディスプレイ広告
③ニッチなサイトとのパートナーシップ構築
④現地のソーシャルネットワークへの有料およびオーガニックキャンペーン

こうした競合調査により、Airbnbは自社のターゲットに合わせて、最も費用対効果の高いマーケティング戦略を選び出し、イスラエルの宿泊施設のマーケットでポジションを確立することに成功しています。

3-2.Sansan

法人向け及び個人向けの名刺管理サービスを提供するSansan株式会社は、自社のペルソナ(提供価値)の再定義により成長を加速させた企業です。ここではGTMのステップ7であるフィードバックと改善について学ぶことができます。

Sansan社は名刺管理サービスを中心としたサービス展開を行い、国内のSaaS業界を牽引する企業です。しかし、2019年ごろに到来した新型コロナウイルスの影響で名刺交換の機会が減ったことから、自社のキーメッセージ(提供価値)を見直す必要がありました。対面での名刺交換の機会が減少したことから、新規受注が失速した一方でSansanを以前に導入した企業では、営業メールを配信するためにサービス内のリストのダウンロードが増加したことなどからサービスのアクティブ率は上昇していました。

こうしたコロナ禍におけるサービス利用の上昇を受けて、営業データベースとして活用されていることに気が付いた同社は、プロダクトを名刺管理サービスから法人データと、社内で蓄積した接点データを掛け合わせ活用するという営業DXサービスとしての刷新を行いました。結果、名刺管理サービスとして認識されていた頃よりも、検討事項としての優先順位が上がり、サービスの導入社数は2022年時点で8400社へと大きく契約数を伸ばしました。

3-3.Loglass

経営管理クラウド「Loglass」を提供する株式会社ログラスは、数多くの顧客へのヒアリングから、GTMのステップ1である「市場とペルソナの選定」を行い、ステップ2の「競合他社の調査」からインサイトを得たことでGTMを成功させた企業です。

GoogleスプレッドシートとGASを使用した自動化システムを作成したログラスは、経営企画やCFOを対象にした日本最大級のFacebookやSlackコミュニティを運営していたことから、参加している200社ほどに仮説を作り、データ管理の課題についてをヒアリングしていきました。結果、数十から数百の部署がある企業においては、部署ごとでExcelスキルに差が生じており、データ収集と統合に課題があることが発覚しました。

ログラスはその後、主に海外リサーチを駆使し、北米におけるLoglassに近い会社について、それらの企業が共存し続けられている理由を調べていき、それらの企業に関してをモデルケースとして捉え、提供ソリューションの基になる仮説を参考にしていき、バリュープロポジションを固めていきました。確かな市場選定、ペルソナの見極め、競合調査により、ログラスはクローズドリリースよりおよそ3ヵ月で、上場企業を中心に10社以上に導入企業を伸ばしています。

4.まとめ

本記事では、製品やサービスを市場に投入する際の戦略であるGTM戦略について説明しました。GTM戦略の立案は、新製品を投入するリスクを最小限に抑える上で鍵となります。一方、より重要なのは、GTM戦略は常に変化し、進化する必要があるということです。常にマーケットや顧客のニーズに対応し、チャネルやプラットフォームを最新のトレンドに合わせて調整していくことで、戦略を最適化していくよう心がけましょう。